「電気自動車(EV)はエンジンオイルの交換が不要だから維持費が安い」と聞いたことはありませんか。
ガソリン車に欠かせないオイル交換がないのは大きな魅力ですが、一方で「本当に何も交換しなくていいの?」「ブレーキオイルはどうなるの?」といった新たな疑問も生まれます。
充電だけで走り続けられるイメージがありますが、実際には電気自動車にも特有のメンテナンスが必要です。
この記事では、電気自動車のオイル交換の真偽から、交換が必要な油脂類、そしてガソリン車やハイブリッド車との違いまで、専門的な情報を基に分かりやすく解説します。
あなたのEVライフがより安全で経済的なものになるよう、メンテナンスのコツを掴んでいきましょう。
- 電気自動車にエンジンオイル交換が不要な理由
- 交換が必要なオイル(油脂類)の種類と役割
- ハイブリッド車やPHEVとのメンテナンスの違い
- オイル交換以外の主要なメンテナンス項目と費用感
電気自動車のオイル交換、その必要性を解説

イメージ画像:EV LIFE ZONE
電気自動車のメンテナンスについて考えるとき、多くの方がまず思い浮かべるのが「オイル交換」の有無です。
ここでは、なぜ電気自動車にエンジンオイル交換が不要なのか、その心臓部であるモーターの仕組みから、EVで使われる特殊なオイルの存在、そして具体例として日産リーフのケースまで、基本的な知識を掘り下げていきます。
EVの心臓部であるモーターの仕組み

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電気自動車がエンジンオイル交換を必要としない最大の理由は、その動力源がエンジンではなく「モーター」である点にあります。
ガソリン車に搭載されるエンジンは、ガソリンを燃焼させて発生する熱エネルギーを運動エネルギーに変換する複雑な機械です。
内部では多くの金属部品が超高速で動き、高温・高圧の環境下で激しく摩擦するため、部品同士の潤滑、冷却、洗浄、そして密封のためにエンジンオイルが不可欠でした。
一方、電気自動車を動かすモーターは、バッテリーからの電気エネルギーを直接回転運動に変えるシンプルな構造をしています。
エンジンと異なり、燃料の燃焼プロセスが存在せず、内部で部品同士が激しく摩擦し合う箇所も限定的です。そのため、エンジンオイルが担っていたような過酷な条件下での潤滑や冷却は基本的に必要ありません。
したがって、電気自動車は構造上、ガソリン車の宿命であった定期的なエンジンオイル交換とその手間、費用から解放されているのです。この点が、電気自動車の維持費を抑える大きな要因の一つと考えられます。
EVオイルとはどのようなものか

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エンジンオイルが不要な電気自動車ですが、油脂類が全く使われていないわけではありません。
実は、電気自動車の性能を最適に保つために、専用に開発された「EVオイル」やフルードが存在します。これらはエンジンオイルとは役割が大きく異なります。
代表的なものに、モーターの回転をタイヤに伝えるための「減速機(トランスミッション)オイル」が挙げられます。
EVの減速機はエンジン車ほど複雑ではありませんが、ギアの潤滑や冷却のためにオイルが必要です。
ただし、エンジンオイルのように燃焼による汚れや高熱に晒されることがないため、交換サイクルは非常に長いか、あるいは廃車まで交換不要とされるケースがほとんどです。
さらに、近年ではより高性能なEVのために、専門メーカーによって「EV駆動系油」や「バッテリー冷却油」といった特殊なオイルが開発されています。
これらは減速機の潤滑性能を高めてエネルギー効率を向上させたり、バッテリーを直接オイルで冷やすことで急速充電性能や寿命を向上させたりする役割を担います。
特に冷却油には、電気を通さない「絶縁性」が求められるのが大きな特徴です。
本当にエンジン潤滑油はいらないの?

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ガソリン車で使われるような「エンジン潤滑油(エンジンオイル)」は、電気自動車には一切不要です。
エンジンそのものが存在しないため、交換する必要もありません。これにより、維持費の削減やメンテナンスの手間が省けるのは、電気自動車の明確な利点です。
ただし、「潤滑油」という広い括りで見ると、話は少し変わります。前述の通り、電気自動車にもモーターの力をタイヤに伝えるための「減速機」という歯車の機構があり、そのギアを滑らかに動かすための潤滑油(ギアオイルやATFなど)が使用されています。
例えば、三菱自動車のeKクロスEVでは、「減速機オイル」として「三菱自動車純正ATF SP III」が指定されています。
しかし、この減速機オイルは、エンジンオイルとは比べ物にならないほど劣化しにくいのが特徴です。
エンジン内部のような高温や燃焼ガスに晒されることがないため、メーカーも定期的な交換を義務付けていない場合がほとんどです。
基本的には車検などのタイミングで点検し、必要に応じて交換するというスタンスであり、多くのユーザーは所有期間中に一度も交換しないまま乗り終えることが考えられます。
リーフを例に見るオイル交換の実際

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具体的な車種として、国内で広く普及している日産「リーフ」を見てみましょう。
リーフも純粋な電気自動車であるため、当然ながらエンジンオイルやオイルフィルターの交換は必要ありません。ガソリンスタンドやカー用品店で「オイル交換いかがですか」と声をかけられても、丁重にお断りして問題ありません。
では、リーフで交換の可能性がある油脂類は何かというと、主に「ブレーキフルード(ブレーキオイル)」と「減速機オイル」の二つが挙げられます。
ブレーキフルードは、他の車と同様に時間と共に湿気を吸って劣化するため、安全のために車検ごとなど定期的な交換が推奨されています。
一方の減速機オイルについては、リーフにも約1.4リットルほど使用されていますが、日産のメンテナンスノートでは定期的な交換項目として指定されていません。
あくまで点検項目であり、漏れや著しい汚れなどが確認された場合に交換を検討する程度です。実際に、整備工場でもリーフの減速機オイルを交換した経験はほとんどないというのが実情のようです。
このことから、リーフの所有者が日常的にオイル交換を意識する場面は、ほぼないと言って差し支えないでしょう。
不要なメリットと知っておくべき注意点

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電気自動車でエンジンオイル交換が不要であることには、多くのメリットがあります。
最大の利点は、やはり経済的な負担の軽減です。ガソリン車では走行距離に応じて年に1〜2回、数千円から一万円以上のオイル交換費用がかかりますが、これがゼロになります。
交換にかかる時間や手間が省けるのも、忙しい現代人にとっては大きな魅力です。
また、廃油が出ないため環境に優しいという側面も見逃せません。一方で、この「オイル交換不要」という言葉だけが先行し、「電気自動車はメンテナンスフリーである」と誤解してしまう点には注意が必要です。
エンジンオイル交換は不要ですが、これまで述べてきたように、ブレーキフルードや冷却水、車種によっては減速機オイルといった他の油脂類の点検・交換は必要になります。
特に、電気自動車は大きなバッテリーを搭載するため車重が重くなりがちで、モーターの強力なトルクも相まって、タイヤへの負担がガソリン車より大きい傾向にあります。
そのため、タイヤの空気圧チェックや溝の深さの確認、定期的なローテーションといったメンテナンスは、むしろガソリン車以上に重要になると考えられます。
電気自動車のオイル交換以外の保守点検

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電気自動車の魅力はオイル交換の手間が省ける点にありますが、安全で快適なカーライフを送るためには、他の定期的な保守点検が欠かせません。
ここでは、オイル交換以外に目を向けるべきメンテナンス項目、特に交換が必要となる油脂類、そしてPHEVやハイブリッド車、車検費用の観点からガソリン車との違いを詳しく見ていきます。
主な電気自動車のメンテナンス項目

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エンジンオイル関連の項目がなくなる一方で、電気自動車には特有の、あるいはガソリン車と共通して重要なメンテナンス項目がいくつか存在します。
これらを怠ると、車の性能低下や思わぬトラブルにつながる可能性があるため、しっかり把握しておくことが大切です。
駆動用・補機用バッテリー
電気自動車の心臓部である駆動用バッテリーは、性能維持のために定期的な点検が推奨されます。
また、ライトやオーディオなどに電力を供給する「補機用バッテリー」はガソリン車にもありますが、EVでは劣化の兆候が分かりにくく、突然故障するケースがあるため、定期的な点検・交換がより重要になります。
タイヤ
前述の通り、EVは車重が重く、発進時のトルクが強いためタイヤが摩耗しやすい傾向にあります。
空気圧の適正化、残り溝の確認、そして定期的なタイヤローテーションは、安全走行と航続距離の維持に直結します。
冷却システム
モーターやインバーター、そしてバッテリーを適切な温度に保つための冷却水(クーラント)も点検が必要です。液量の確認や、メーカー指定の交換時期に従った交換が求められます。
ブレーキシステム
回生ブレーキを多用するためブレーキパッドの摩耗は少ないですが、ブレーキフルードは経年劣化します。安全に直結する部分なので、定期的な交換が不可欠です。
ブレーキオイルと冷却水は交換が必要

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電気自動車のメンテナンスにおいて、特に注意すべき油脂・液体類が「ブレーキオイル(ブレーキフルード)」と「冷却水(クーラント)」です。
これらはエンジンオイルとは異なり、電気自動車であってもガソリン車と同様に定期的な交換が必要となります。
ブレーキオイルは、ブレーキペダルを踏んだ力をブレーキ装置に伝える重要な役割を担っています。
このオイルは空気中の水分を吸収しやすい性質(吸湿性)があり、長く使用していると水分量が増えて沸点が下がります。
その結果、長い下り坂などでブレーキを多用した際に、ブレーキ配管内でオイルが沸騰し、気泡が発生してブレーキが効かなくなる「ベーパーロック現象」を引き起こす危険性があります。
電気自動車は回生ブレーキがあるため機械式ブレーキの使用頻度は低いですが、吸湿による劣化は避けられないため、車検ごと(2年ごと)など定期的な交換が安全上必須です。
また、冷却水はモーターやインバーター、そして最も重要なバッテリーを冷却し、性能を維持するために使われます。
バッテリーは熱に弱く、高温状態が続くと性能低下や寿命の短縮につながります。そのため、冷却水が劣化したり減ったりすると、EVの性能に直接影響を及ぼしかねません。
スーパーロングライフクーラント(SLLC)などが使用され、交換サイクルは長い傾向にありますが、メーカーの指定に従って点検・交換することが大切です。
PHEVやハイブリッド車のオイル交換頻度
電気自動車(EV)と混同されやすいですが、エンジンとモーターの両方を搭載する「プラグインハイブリッド車(PHEV)」や「ハイブリッド車(HV)」は、エンジンオイルの定期的な交換が必要です。
これらの車は、走行状況に応じてエンジンを始動・停止させるため、オイルの管理が燃費やエンジンの寿命に大きく影響します。
交換頻度は、メーカーや車種によって異なりますが、一般的には「走行距離1.5万kmまたは1年」のどちらか早い方、といった指定が多いようです。
ただし、これは通常の使用を想定したサイクルです。一度の走行距離が短い「ちょい乗り」が多い、山道や悪路を頻繁に走るといった、エンジンにとって厳しい使い方(シビアコンディション)に該当する場合は、メーカーが指定するサイクルの半分程度での交換が推奨されます。
また、PHEVやHVでは、燃費性能を最大限に引き出すため、「0W-20」や「0W-16」といった粘度の低い(柔らかい)エンジンオイルが指定されていることがほとんどです。
粘度の硬いオイルを入れると、エンジンの抵抗が増えて燃費が悪化する可能性があるため、必ず車種に適合したオイルを選ぶことが肝心です。
車両タイプ | エンジンオイル交換 | 交換頻度の目安(通常時) |
---|---|---|
電気自動車 (EV) | 不要 | – |
ハイブリッド車 (HV) | 必要 | 1年 または 1.5万km |
プラグインハイブリッド車 (PHEV) | 必要 | 1年 または 1.5万km |
ガソリン車 | 必要 | 半年〜1年 または 5千〜1.5万km |
ディーラー泣かせ?電気自動車の車検費用

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「電気自動車はメンテナンスで儲からないからディーラー泣かせだ」という話を聞くことがあります。
これは、オイル交換をはじめとする消耗品の交換が少なく、整備による収益がガソリン車に比べて減る傾向にあるためです。実際に、車検や定期点検の費用はガソリン車よりも安くなるケースが多く見られます。
車検費用は大きく「法定費用」と「整備費用」に分かれます。法定費用(自動車重量税、自賠責保険料、印紙代)のうち、自動車重量税はエコカー減税によって新車購入時と初回車検時が免税になるため、この時点でガソリン車より安くなります。
さらに差が付くのが整備費用です。電気自動車はエンジンオイル、オイルフィルター、ファンベルト、スパークプラグといった定期交換が必要な部品がありません。
これにより、部品代と交換工賃が大幅に削減されます。例えば、日産のディーラーでは、初回車検までのメンテナンスパックの料金が、ガソリン車のエクストレイルに比べてEVのアリアは約30%も安く設定されているという実例もあります。
このように、ユーザーにとっては車検費用を抑えられるという大きなメリットが存在します。
『電気自動車のオイル交換は不要?費用とメンテナンス項目を解説』総括
- 電気自動車はエンジン非搭載のためエンジンオイルの交換は一切不要
- オイル交換の手間と費用が削減できるのがEVの大きなメリット
- 「オイル交換不要」は「全ての油脂類が不要」という意味ではない
- モーターの力を伝える減速機には専用のギアオイルが使われている
- 減速機オイルは劣化しにくく基本的に定期交換は指定されていない
- 安全に関わるブレーキオイル(ブレーキフルード)は定期交換が必須
- ブレーキオイルは湿気を吸って劣化するため車検ごとの交換が目安
- バッテリーやモーターを冷やす冷却水も点検・交換が必要な項目
- ハイブリッド車(HV)とPHEVはエンジンがあるためオイル交換を行う
- HV・PHEVでは燃費性能に優れた低粘度オイルが推奨される
- EVは車重が重くタイヤが摩耗しやすいためこまめな点検が大切
- ライト類を動かす補機バッテリーなどEV特有の注意点もある
- 「オイル交換不要」と「メンテナンスフリー」は同義ではない
- 車検時の費用は交換部品が少ないためガソリン車より安くなる傾向
- 正しい知識を持つことが安全で経済的なEVライフにつながる
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