世界の電気自動車(EV)市場で、驚異的な成長を遂げている中国メーカー「BYD」。
テスラと世界首位の座を争うほどの存在となり、日本でも乗用車の販売を開始しました。
「BYDはなぜ売れるのか?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、BYDが世界で躍進を遂げた理由から、日本市場における特有の課題、そして今後の展望までを多角的に掘り下げていきます。
BYDの強さの秘密と、日本での現状を詳しく見ていきましょう。
- BYDの世界的な成功を支える独自の強み
- 競合テスラや日本メーカーとの具体的な違い
- 日本市場で「売れない」と言われる背景と今後の展望
- 価格設定や技術力など、消費者が注目するポイント
世界でBYDがなぜ売れるのか?その躍進の理由

イメージ画像:EV LIFE ZONE
まず、BYDがグローバル市場でなぜこれほどまでに成功を収めているのか、その核心に迫ります。
単なる自動車メーカーではない、BYDならではの強固な事業基盤と開発思想が、躍進を支える原動力となっています。
BYDの何がすごい?垂直統合モデルの強み
BYDの最大の強みは、開発から生産までの工程を自社グループ内で完結させる「垂直統合」モデルにあります。
多くの自動車メーカーが外部のサプライヤーから部品を調達するのとは対照的に、BYDはEVの心臓部であるバッテリーはもちろん、モーターやパワー半導体といった基幹部品のほとんどを内製しています。
この体制が、驚異的な開発スピードとコスト競争力を生み出す源泉です。
例えば、部品の仕様変更や新技術の導入を自社の判断で迅速に行えるため、市場のニーズに素早く応える新型車を次々と投入できます。
サプライヤーとの調整に時間を要することがないため、開発期間を大幅に短縮できるのです。
実際に、2021年から2023年にかけて販売台数を4倍以上に伸ばした背景には、この開発速度が大きく貢献していると考えられます。
ただし、このモデルはメリットばかりではありません。
大規模な設備投資が必要であり、全ての部品を自社で抱えることは、時に経営の柔軟性を欠くリスクも伴います。
しかし、現在のEV市場のように技術革新のスピードが速い環境下では、BYDの垂直統合モデルが他社に対する強力なアドバンテージとなっていることは明らかです。
圧倒的な開発力で遂げた近年の急成長

イメージ画像:EV LIFE ZONE
BYDの急成長は、具体的な数字にもはっきりと表れています。
2021年の年間販売台数が約74万台だったのに対し、2022年には約186万台、そして2023年には300万台の大台を突破しました。

わずか2年で販売規模を4倍以上に拡大させる成長速度は、自動車業界の常識を覆すものです。
この躍進を支えているのが、創業者である王伝福会長の開発ドリブンな経営思想です。
研究者出身である彼のリーダーシップのもと、BYDは技術革新を最優先事項と位置づけています。
従業員数は数十万人にのぼり、その中には数万人規模のエンジニアが含まれていると言われています。この潤沢な開発リソースが、高品質な製品をスピーディーに生み出す土台となっています。
また、単にEVを開発するだけでなく、PHV(プラグインハイブリッド)にも力を入れている点が、近年の成長をさらに加速させました。
EVへの移行にためらいを持つ消費者層に対して、現実的な選択肢として高性能なPHVを提供することで、より幅広い顧客の獲得に成功しています。
これらのことから、BYDの成長は多様なニーズに応える開発力と、それを支える企業文化の賜物であると言えます。
BYDはなぜ安い?バッテリー内製の価格競争力
BYDの車が持つ大きな魅力の一つに、その価格競争力が挙げられます。
同等スペックの他社製EVと比較して、戦略的な価格設定が可能な理由は、BYDがもともとバッテリーメーカーとして創業した点に集約されます。
EVのコストの約3〜4割を占めるとされるバッテリーを自社で開発・生産できるため、他社には真似のできないコスト優位性を確立しているのです。
特に、BYDが独自に開発した「ブレードバッテリー」は、価格競争力の鍵を握ります。
このバッテリーは、安全性が高く寿命も長いとされるリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池を採用しながら、独自の構造でエネルギー密度と安全性を両立させました。
これにより、従来は乗用車に不向きとされたLFP電池の弱点を克服し、低コストでありながら高性能なEVの生産を実現したのです。
このように、EVで最も高価な部品であるバッテリーを内製化し、さらに技術革新によってその性能とコスト効率を高めていることが、BYDの「安さ」の秘密です。
これは、単なるコスト削減ではなく、バッテリーというコア技術を深く理解し、知り尽くしているからこそ可能な戦略と言えるでしょう。
世界のEV市場におけるテスラとの覇権争い

イメージ画像:EV LIFE ZONE
世界のEV市場に目を向けると、BYDは米国テスラと販売台数世界一の座を巡り、熾烈な競争を繰り広げています。
両社の競争を理解する上で、販売台数の数え方が一つのポイントになります。
テスラがバッテリーEV(BEV)のみを生産しているのに対し、BYDはBEVに加えてプラグインハイブリッド車(PHV)も「新エネルギー車(NEV)」として強力に展開しています。
BEVのみの販売台数で見ると、2023年時点ではテスラがBYDを上回っていますが、NEVの総販売台数ではBYDがテスラを大きく引き離し、世界トップに立っています。
メーカー | 2023年 販売台数(BEV) | 2023年 販売台数(NEV合計) | 主な特徴 |
---|---|---|---|
テスラ | 約181万台 | 約181万台 | BEV専業、先進的なソフトウェア |
BYD | 約160万台 | 約302万台 | BEVとPHVの両輪、幅広い価格帯 |
この背景には、両社の戦略の違いがあります。テスラは先進的なブランドイメージと高性能なBEVで市場を牽引していますが、車種は比較的限定されています。
特に、航続距離や充電に不安を感じるユーザーにとって、BYDのPHVは現実的な選択肢として強く支持されています。
この戦略の多様性が、テスラとの覇権争いを有利に進める要因となっています。
BYDが展開する多様な電気自動車の魅力
BYDの強みは、技術力や価格だけではありません。近年、消費者を惹きつけるデザイン性や商品ラインナップの多様性も大きく向上しています。
かつての中国車が持っていた「安かろう悪かろう」というイメージは、もはやBYDには当てはまりません。
デザイン性の向上
BYDは、元アウディのデザイナーであるヴォルフガング・エッガー氏をデザイン部門のトップに迎え入れ、デザインを大幅に刷新しました。
「ドラゴンフェイス」と呼ばれる統一感のあるフロントデザインは、洗練された印象を与え、国際的にも高い評価を受けています。
日本で販売されている「ATTO 3」や「DOLPHIN」、「SEAL」も、それぞれ個性的でありながら、スタイリッシュな内外装が特徴です。
多様な車種展開
前述の通り、BYDはEVだけでなくPHVも展開しており、顧客の選択肢が非常に広いことが魅力です。
セダン、SUV、コンパクトカーと、さまざまなボディタイプのEVを市場に投入しています。
2024年5月には、航続距離2100kmを謳う新世代のPHV技術を発表するなど、技術革新の手も緩めていません。
これにより、「EVはまだ早い」と考える層から、先進的なEVを求める層まで、幅広いニーズを捉えることが可能になっています。
このような製品ポートフォリオの広さが、多くのユーザーにとっての魅力となり、販売台数の増加に直結していると考えられます。
日本でも今後、BYDはなぜ売れるのか?と言われる可能性

イメージ画像:EV LIFE ZONE
世界市場で快進撃を続けるBYDですが、ここ日本での道のりは決して平坦ではありません。
世界で通用する強みを持ちながらも、なぜ日本では苦戦が伝えられるのか。その背景にある特有の事情と、今後の成功に向けた課題を検証します。
日本では売れない?日本撤退の噂の真相と将来
BYDの日本での販売台数は、2023年が約1,500台、2024年は増加傾向にあるものの、月平均で200台前後と、グローバルでの成功に比べると非常に小規模です。
この状況から「日本では売れない」「いずれ日本から撤退するのでは」といった声が聞かれることもあります。
実際に売れ行きが伸び悩む背景には、いくつかの要因が考えられます。
第一に、日本の消費者の間には、依然として国産車ブランドへの強い信頼があることです。特に、品質やアフターサービスに対する安心感は、長年の実績を持つ日本メーカーに分があります。
第二に、中国メーカーに対するブランドイメージも課題の一つです。製品の品質が向上していても、過去のイメージが払拭されず、購入をためらう消費者が少なくありません。
そして第三に、日本の市場環境です。充電インフラの整備が遅れていることや、高性能なハイブリッド車(HEV)が広く普及しているため、消費者が敢えてEVを選ぶ動機が生まれにくい状況があります。
しかし、これらの状況をもって「日本撤退」と結論づけるのは早計です。
BYDは2025年末までに国内の販売拠点を100カ所に増やす計画を公言しており、これは日本市場への強いコミットメントを示しています。
特に個人的に注目しているのは以下のニュース。

なんと、日本ガラパゴス最後の聖域といってもいい、「軽自動車」にBYDが参入してくるのです。
むしろ、BYDにとって日本市場は、単なる販売台数を稼ぐ場所ではなく、自動車先進国でブランドを確立するための「試金石」と位置づけている可能性があります。
したがって、短期的な販売台数だけで将来を判断するのは適切ではないでしょう。
トヨタや日産など日本メーカーとの比較

イメージ画像:EV LIFE ZONE
BYDの戦略を理解するためには、トヨタや日産といった日本の巨大メーカーとの比較が欠かせません。各社の電動化へのアプローチには、明確な違いが見られます。
BYDは、2022年にガソリンエンジン車の生産を完全に終了し、EVとPHVに経営資源を集中させる大胆な決断を下しました。
これは、電動化へのシフトを加速させ、専門メーカーとしての地位を確立する狙いがあります。
開発スピードとコスト競争力を武器に、市場のルールを変えようとする「破壊者」の戦略です。
一方、トヨタは「マルチパスウェイ戦略」を掲げ、EVだけでなく、HEV、PHV、さらには水素エンジン車や燃料電池車(FCV)まで、全方位で可能性を追求しています。
これは、世界各国のエネルギー事情や顧客ニーズが多様であることを踏まえた、現実的かつ柔軟なアプローチです。
既存の強力な販売網と、信頼性の高いHEV技術がこの戦略を支えています。
日産は、「リーフ」で早期からEV市場を切り拓いた先駆者ですが、その後の展開がやや遅れました。
現在は軽EVの「サクラ」が国内で大ヒットし、クロスオーバーEVの「アリア」と共に、再びEV市場での存在感を高めようとしています。
この戦略の違いが、今後の市場シェア争いにどう影響するか、注目が集まります。
BYDを実際に買う人はどんな層なのか
日本でBYDの車を購入するのは、現時点では特定の志向を持つ層が中心と考えられます。
まず挙げられるのは、新しい技術や海外の製品に対する関心が高い「アーリーアダプター(早期採用者)」です。
彼らは、既存のブランドイメージに捉われず、製品そのものの性能やコストパフォーマンスを重視する傾向があります。
次に、EVならではの走行性能や静粛性、そして経済性に魅力を感じる層です。
特に、自宅に充電設備を設置できる戸建て住まいの人や、セカンドカーとして日常の足にEVを検討している人にとって、補助金を活用すれば400万円前後から購入できるBYDのモデルは魅力的な選択肢となります。
ガソリン価格の高騰が続く中で、ランニングコストを抑えたいというニーズも購入を後押しする要因です.
また、環境問題への意識が高い層もターゲットの一つです。
走行中にCO2を排出しないEVを選ぶことを、ライフスタイルの一部として捉えている人々です。
これらの層は、国内メーカーのEVラインナップがまだ限られている中で、デザインや性能に優れたBYDの車に注目する可能性があります。
このように、BYDの購入者は、現状ではまだ少数派ながらも、明確な価値観を持つ人々が中心となっていると推察されます。
ディーラー網の拡充とアフターサービス

イメージ画像:EV LIFE ZONE
自動車のような高額商品を販売する上で、顧客との直接的な接点であるディーラー網の整備は極めて大切です。
この点を理解しているBYDは、日本全国で販売・サービス体制の構築を急ピッチで進めています。
2023年1月の乗用車販売開始から、2025年末までに正規ディーラーを100店舗体制にするという目標は、その本気度の表れです。
この戦略は、単に店舗を増やすだけではありません。
これにより、BYDは一から人材を育成する手間を省き、パートナー企業が持つノウハウや顧客基盤を活用できるのです。
消費者にとって、ディーラーの存在は試乗や購入相談の場であると同時に、購入後のメンテナンスや修理といったアフターサービスの安心感を担保するものです。
特に、馴染みのない海外メーカーの車であれば、その重要性はさらに増します。
BYDが着実にディーラー網を拡充し、信頼性の高いサービス体制を構築できれば、日本の消費者が抱く不安を和らげ、ブランドへの信頼を高める上で大きな一歩となるでしょう。
まとめ:BYDは日本で今後大化けする可能性、カギは軽自動車?
- BYDの強みはバッテリーから半導体まで内製する垂直統合モデル
- 垂直統合により開発スピードの向上とコスト削減を両立
- 2023年の世界販売台数は300万台を突破し驚異的な成長を記録
- EVだけでなくPHVも強力に展開し幅広い顧客ニーズを獲得
- EVの心臓部であるバッテリーを自社生産できることが価格競争力の源泉
- 独自開発の「ブレードバッテリー」が低コストと高性能を両立させた
- 世界のEV市場ではテスラと販売台数世界一を競う存在
- 販売台数の定義ではBEVのみならテスラ、NEV合計ならBYDが首位
- 元アウディのデザイナーを起用しデザイン性を大幅に向上
- 日本での販売台数はまだ少なく「売れない」との声もある
- 背景には国産車への強い信頼やブランドイメージの課題が存在
- しかし2025年までに100店舗のディーラー網を整備する計画で本気度は高い
- トヨタの全方位戦略や日産のEV戦略とは異なる「集中戦略」が特徴
- 日本での購入者は新しい技術に関心が高い層やコスト重視層が中心
- ディーラー網の拡充は日本市場での信頼獲得に不可欠
コメント