BYDの技術力は本物?エンジンからバッテリーの独自技術から日本メーカーとの提携関係まで

BYDの技術力は本物?エンジンからバッテリーの独自技術から世界的メーカーとの提携関係まで BYD
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近年、世界の自動車市場でその名を耳にする機会が急激に増えたBYD

電気自動車(EV)の販売台数でテスラと肩を並べるニュースを目にした方も多いかもしれません。しかし、BYDの躍進を支えているのは、本当に優れた技術力なのでしょうか。

「中国のメーカーだから価格が安いだけでは?」「EVはともかく、エンジンなどの伝統的な技術はどうなのか」といった疑問の声も聞かれます。

この記事では、BYDの技術力を知りたい方の疑問に答えるため、同社の技術の核心に迫ります。

バッテリーメーカーとしての出自から、世界を驚かせたエンジン技術、そして競合他社との比較まで、多角的な視点からその実力を徹底的に解説します。

記事のポイント
  1. BYDの独自開発を支える開発体制と内製率の強み
  2. 世界水準のエンジン技術とPHEV(DM-i)の仕組み
  3. テスラやトヨタなど競合他社との技術的な立ち位置
  4. データに基づいたBYDの総合的な技術力の評価

BYDの技術力の根幹をなす開発体制

BYDの技術力の根幹をなす開発体制

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BYDの技術力を理解する上で、まずその成り立ちと開発思想の根幹を知ることが不可欠です。

ここでは、同社がどのようにして独自の技術力を培ってきたのか、その背景にある開発体制や特徴的なエンジン技術、そして性能の真偽について掘り下げていきます。

BYDのEVは一体どこ製なのか

BYDの自動車がどこで製造されているかという問いに対して、その答えは明確に「中国」です。

BYD(比亜迪)は1995年に広東省深圳市でバッテリーメーカーとして創業した、中国を代表する企業の一つになります。

当初は携帯電話向けの二次電池で事業を拡大しましたが、2003年に自動車業界へ参入しました。

わずか10年余りでテスラのような世界的なEVメーカーになったのは、驚愕の一言ですね。

バッテリー技術を自社の強みとして活かせる電気自動車(EV)の開発に早くから着手し、今では世界有数の新エネルギー車メーカーへと成長しています。

主要な研究開発拠点や生産工場は中国国内にありますが、その影響力は国境を越え、世界70以上の国と地域で事業を展開しています。

例えば、米国カリフォルニア州には電気バスの生産工場を構えるなど、グローバルな生産体制も構築しつつあります。

したがって、BYDは中国企業でありながら、その製品と技術は世界市場を舞台に競争していると言えるでしょう。

独自技術を追求する開発体制

独自技術を追求する開発体制

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BYDの強さを支えているのは「技術こそが世界を変えられる」という創業以来のエンジニア思考です。

同社は単に自動車を組み立てるメーカーではなく、中核となる部品や技術を自社で開発することに強いこだわりを持っています。

この開発体制の原点は、バッテリーメーカーとしての出自にあります。

電池という製品の性能を根本から左右する材料科学や化学の知見を深く理解し、それを自社製品に活かしてきた経験が、自動車開発においても生かされています。

その代表例が、EVの性能を決定づけるバッテリー、モーター、コントローラーといった基幹部品を内製している点です。

さらに、EV専用に設計された車台「e-platform 3.0」のような、車両全体の性能を最適化するプラットフォーム開発にも力を入れています。

BYD Manufacturer Stories. 04.BYDの「e-Platform 3.0」とは一体なんなのか?(前編) | BYD Auto Japan株式会社
BYD Auto JapanのBYD Manufacturer Stories.ページです。BYDの「e-Platform 3.0」を紹介します。

このように、外部の技術に頼るのではなく、あくまで自社の手で核心技術を生み出していく姿勢が、BYDの独自性と競争力の源泉となっています。

驚異的な部品の内製率が強み

BYDの技術開発体制を語る上で、驚異的なまでに高い部品の内製率は避けて通れない要素です。

一般的に、日本の自動車メーカーでは部品の約7割を外部のサプライヤーから調達するのが基本ですが、BYDではその比率が逆転し、約9割の部品を自社グループ内で製造していると言われています。

この垂直統合モデルは、いくつかの大きな利点をもたらします。

第一に、外部サプライヤーへの中間マージンを削減できるため、大幅なコストダウンが可能です。

第二に、部品の設計変更や新技術の導入を迅速に行えるため、開発スピードが格段に向上します。

そして第三に、部品の品質を自社の厳格な基準で一貫して管理できる点が挙げられます。

例えば、EVの心臓部であるバッテリーやパワー半導体、さらにはトランスミッションのような複雑な部品まで自社で手がけることで、製品全体の最適化を図っています。

性能と価格を両立したBYDの自動車は、この徹底した内製化という企業努力の賜物と考えられるのです。

世界最高水準を謳う熱効率は本当か

世界最高水準を謳う熱効率は本当か

イメージ画像:EV LIFE ZONE

BYDは2024年に、新型PHEV(プラグインハイブリッド車)に搭載する1.5Lエンジンの熱効率が46.06%に達したと発表し、自動車業界に衝撃を与えました。

この数値は、量産ガソリンエンジンとしては紛れもなく世界最高水準であり、その真偽に注目が集まっています。

BYDがPHEVの未来を革新する第5世代のDMテクノロジーを発表|ビーワイディージャパン株式会社

まず、この数値の信憑性ですが、技術的な裏付けから見て可能性は十分にあると考えられます。

BYDはPHEVシステム「DM-i」において、エンジンを主に発電用として使用し、最も効率の良い回転域で運転させることを前提に設計しています。

このため、特定の運転領域に特化して効率を最大化するチューニングが可能です。

また、高圧縮比化やアトキンソンサイクルの採用、冷却システムの工夫など、熱効率を高めるための最新技術が投入されています。

ただし、この数値は第三者機関による認証ではなく自社発表値である点には留意が必要です。

それでも、トヨタのダイナミックフォースエンジン(最大41%)を大きく上回るこの野心的な目標を公表したこと自体が、BYDのエンジン技術に対する自信の表れと言えるでしょう。

注目される独自のエンジン技術

BYDが注目されているのは、EVやバッテリー技術だけではありません。

むしろ、近年の躍進を支えているのは、PHEV(プラグインハイブリッド車)を核とする独自のエンジン技術です。

同社のエンジンは、単体で高性能を追求するのではなく、電動化システム全体の中でその役割を最適化するという思想で開発されています。

その象徴が、前述の通り、世界最高レベルの熱効率46.06%を達成したPHEV専用エンジンです。

このエンジンは、常に全開で力強く走ることを目的としていません。

BYDのPHEVシステム「DM-i」では、日常走行のほとんどをモーターが担い、エンジンは主に発電に徹します。エンジンが最も効率的に稼働できる、いわば「おいしい領域」だけを使うことで、システム全体としての燃費を劇的に向上させているのです。

この仕組みはホンダのe:HEVにも似ていますね。

Honda
Hondaのハイブリッドシステム「e:HEV(イーエイチイーブイ)」の公式サイト。高い環境性能を実現するとともに、走りの爽快さを突きつめた五感に響くハイブリッドです。

このように、エンジンを電動コンポーネントの一部として捉え、役割を限定・特化させるという割り切った設計思想こそが、BYDのエンジン技術の独自性と先進性を示しています。

BYDの技術力は競合他社を凌駕するか

BYDの技術力は競合他社を凌駕するか

イメージ画像:EV LIFE ZONE

BYDが持つ個々の技術力の高さは明らかになりつつあります。

しかし、その技術が自動車市場全体、特に強力なライバルがひしめく中でどれほどの競争力を持つのでしょうか。

ここでは、BYDの主力技術であるPHEVの仕組みを解き明かしながら、EVの覇者テスラや、トヨタ、三菱、ホンダといった国内外の巨人たちと比較することで、その真の実力と立ち位置を検証します。

EVの核となるDM-iの仕組み

EVの核となるDM-iの仕組み

イメージ画像:EV LIFE ZONE

BYDの躍進を理解する上で鍵となるのが、同社独自のPHEV(プラグインハイブリッド車)技術「DM-i(Dual Motor-intelligent)」です。

このシステムは、エンジンとモーターの役割分担を徹底的に効率化し、EVの滑らかさとハイブリッドの経済性を両立させることを目指して設計されています。

DM-iの基本思想は「EV走行が主体」です。大容量のブレードバッテリーを搭載し、日常的な走行のほとんどを電気だけでまかないます。

バッテリー残量が少なくなったり、強い加速が必要になったりした場合にのみ、エンジンが始動します。

その際、エンジンは主に発電に徹し、モーターを駆動させるための電力を供給します(シリーズハイブリッド方式)。

高速巡航など、エンジンが効率的に稼働できる特定の条件下でのみ、エンジンが直接タイヤを駆動させることもあります(パラレルハイブリッド方式)。

この巧みな制御により、エンジンを常に最も効率の良い状態で運転させ、驚異的な燃費性能を実現しているのです。

主力となるプラグインハイブリッド

現在、BYDのグローバル販売を牽引しているのは、実はEV(電気自動車)だけではありません。

むしろ、販売台数で見るとPHEV(プラグインハイブリッド車)が大きな柱となっており、これが同社の大きな強みです。

2024年の販売実績を見ると、BYDのPHEV販売台数はEVを上回る月が多く、新エネルギー車市場全体でのシェアを確固たるものにしています。

この背景には、世界の市場、特に中国国内や新興国において、充電インフラがまだ十分に整備されていない現実があります。

PHEVは、日常の移動は電気でこなしつつ、長距離移動や充電環境がない場所ではガソリンで走行できるため、ユーザーの「航続距離への不安」を解消します。

EVへの完全移行にはまだ時間が必要とされる中で、このPHEVという現実的な解決策を、しかも高い競争力を持つ価格で提供できることが、BYDが多くの顧客から支持される理由となっています。

EVの覇者テスラとの技術比較

BYDとテスラは、共に新エネルギー車のトップメーカーですが、その技術的なアプローチや強みは大きく異なります。

両社の違いを理解することで、BYDの立ち位置がより明確になります。

BYDとテスラの技術面比較

比較項目 BYD テスラ
強みの中核 バッテリー技術、垂直統合生産 ソフトウェア(SDV)、自動運転、充電網
バッテリー ブレードバッテリー(リン酸鉄系)
安全性、長寿命、コスト重視
円筒形セル(NCM/NCA系)
エネルギー密度、パフォーマンス重視
生産方式 部品の内製率が非常に高い ギガプレスなど革新的な工法による
生産プロセスの効率化
ラインナップ EV、PHEV
低価格帯から高価格帯まで幅広く展開
EV専業
比較的高価格帯が中心
ソフトウェア 開発途上(「天神之眼」など) 業界をリードするOTAアップデート

要するに、BYDは優れたバッテリー技術を基盤に、徹底した内製化でコスト競争力と多様な車種展開を実現する「ハードウェアの巨人」としての側面が強いです。

一方、テスラは自動車を「走るコンピュータ」と捉え、ソフトウェアやユーザー体験、そして独自の充電インフラでエコシステムを構築する「ソフトウェアの巨人」と言えるでしょう。

巨人トヨタとの協業と競争

巨人トヨタとの協業と競争

トヨタ公式サイト

かつて日本の自動車メーカーが技術の「先生」であった時代から、状況は大きく変化しました。

その象徴的な事例が、BYDとトヨタ自動車の関係です。両社はグローバル市場では強力なライバルですが、特定の分野では手を結ぶパートナーでもあります。

この協業が最も明確に表れているのが、2022年に中国市場で発売されたトヨタのセダン型EV「bZ3」でしょう。

このモデルには、心臓部であるバッテリーとモーターにBYD製のものが採用されています。

トヨタとBYDが共同開発した「bZ3」が登場、バッテリーはBYD製
トヨタ自動車は2022年10月24日、EV(電気自動車)の「bZシリーズ」で第2弾となる「bZ3」を発表した。

EV開発、特にコストを抑えつつ十分な性能を持つバッテリーを調達する点で課題を抱えていたトヨタが、ライバルであるはずのBYDの技術に頼った、とも捉えられます。

これは、BYDが持つブレードバッテリーの安全性、コスト競争力、そして供給能力を、世界の巨人が認めたことに他なりません。

BYDにとっては、トヨタとの協業がブランドイメージと技術的な信頼性を世界的に高める絶好の機会となっており、両社の関係は競争と協調が共存する新しい時代を象徴しています。

PHEVで先行する三菱との違い

PHEVで先行する三菱との違い

三菱自動車公式サイト

プラグインハイブリッド車の分野では、三菱自動車が「アウトランダーPHEV」で長年の実績を持つパイオニアとして知られています。

後発であるBYDのPHEVは、この先行者とどのような違いがあるのでしょうか。

両社の最大の違いは、システムが重視する価値にあります。

三菱のアウトランダーPHEVは、前後に独立したモーターを配置するツインモーター4WDを基本とし、独自の車両運動統合制御システム「S-AWC」と組み合わせることで、悪路走破性や意のままのハンドリングといった「走行性能」を最大の強みとしています。

一方、BYDの「DM-i」システムは、前述の通り、エンジンを発電に徹させることでシステム全体の効率を極限まで高め、「燃費性能」と「経済性」を最優先に設計されています。

どちらのシステムも優れていますが、三菱が電動化技術を走る喜びに繋げようとしているのに対し、BYDは日々の移動をいかに効率的で経済的にするかに焦点を当てている点で、その目指す方向性が異なると言えます。

HVの雄ホンダに対する優位性

HVの雄ホンダに対する優位性

ホンダ公式サイト

ホンダのハイブリッドシステム「e:HEV」は、エンジンを発電に使いモーターで走行するというシリーズハイブリッドを基本としており、その効率の高さには定評があります。

実は、BYDの「DM-i」もこのe:HEVと構造的に類似している点が多く見られます。

両者の決定的な違いは、搭載するバッテリーの容量と、それを内製できるかどうかにあります。

e:HEVはあくまでハイブリッド車(HV)であり、外部からの充電はできません。搭載するバッテリーも比較的小容量で、EVとして走行できる距離はごくわずかです。

一方、DM-iはプラグインハイブリッド車(PHEV)であり、大容量のバッテリーを搭載しています。

これにより、数十kmから100km以上のEV走行が可能となり、日常の移動のほとんどを電気だけで賄えます。

この大容量バッテリーを自社で低コストに生産できることは、BYDがホンダに対する最大の優位性です。

バッテリーを制する者が電動化を制するという言葉を、まさに体現していると言えるでしょう。

総括:データで見るBYDの技術力

この記事を通じて、BYDの技術力が多岐にわたる分野での確固たる実績に裏打ちされていることを解説しました。最後に、同社の技術力を客観的なデータと共に総括します。

  • BYDはバッテリーメーカーとして創業した中国企業
  • 「技術こそが世界を変える」というエンジニア思考が根幹にある
  • 約9割に達すると言われる驚異的な部品内製率が強み
  • コスト削減と開発スピードを両立する垂直統合モデルを確立
  • PHEV用エンジンは世界最高水準の熱効率46.06%を達成
  • 主力技術はEV走行を主体とするPHEVシステム「DM-i」
  • DM-iは圧倒的な低燃費と2,000kmを超える航続距離を実現
  • 安全性とコストに優れる「ブレードバッテリー」が全ての基幹技術
  • EVだけでなくPHEVの販売台数でも世界トップクラスを争う
  • トヨタは中国向けEVでBYDのバッテリーとモーター技術を採用
  • テスラとは開発思想が異なりハードウェアの作り込みに強みを持つ
  • ホンダのe:HEVと似た構造だが大容量バッテリーの搭載で優位性を確保
  • 三菱のPHEVとは走行性能よりも燃費効率の追求で差別化
  • 低価格帯から高級車、商用車まで幅広い電動化ラインナップを展開
  • BYDの技術力は今や世界の自動車産業をリードする存在となっている

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