近年、世界の電気自動車(EV)市場で驚異的な成長を遂げている中国のメーカー、BYD。
日本でもテレビCMやディーラー網の拡大により、その名を目にする機会が増えました。しかし、「中国メーカーの車は耐久性が心配だ」という声を耳にすることも少なくありません。
特に高価な買い物である自動車にとって、長く安心して乗れるかどうかは最も気になるポイントの一つです。
この記事では、「BYDの耐久性」という疑問に真正面から向き合います。
バッテリーメーカーとして創業したBYDが誇る独自の技術や、実際のバッテリー寿命、他国のメーカーとの比較、そして無視できない懸念点まで、客観的な視点で徹底的に解説していきます。
- BYDの核となる「ブレードバッテリー」の技術的な特徴
- バッテリー寿命や交換費用など維持に関わる実用的な情報
- 日本車や欧州車と比較した場合のBYDの立ち位置
- 購入前に把握すべきメリットと潜在的なリスク
BYDの耐久性を支えるバッテリー技術

イメージ画像:EV LIFE ZONE
BYDの耐久性を語る上で、その心臓部であるバッテリーの存在は欠かせません。
もともとバッテリーメーカーとして世界的な地位を確立した背景があり、その技術力がEVの性能と信頼性に直結しています。
ここでは、BYDの耐久性の根幹をなすバッテリー技術について、その詳細を掘り下げていきます。
技術力の結晶「ブレードバッテリー」
BYDの耐久性と安全性を支える核となっているのが、独自に開発した「ブレードバッテリー」です。
このバッテリーは、一般的なEVに多く採用される三元系リチウムイオン電池とは異なり、リン酸鉄リチウムイオン(LFP)を採用しています。
さらに、ブレードバッテリーは構造にも大きな特徴があります。
従来のバッテリーシステムでは、「セル」を複数集めて「モジュール」を構成し、それを「パック」に収めるという段階を踏んでいました。
しかし、ブレードバッテリーではこのモジュールを廃止し、刀のように長く薄い形状のセルを直接パックに敷き詰める「セル・トゥ・パック(CTP)」技術を採用しています。
これにより、部品点数の削減によるコストダウンはもちろん、限られたスペースに多くのセルを配置できるため、エネルギー密度が向上し、航続距離の伸長にも貢献しています。
この革新的な発想こそ、バッテリーメーカーであるBYDの技術力を示すものです。
内部構造が示す信頼性の高さ
ブレードバッテリーの信頼性は、その独特な内部構造によってさらに高められています。
刀状のセルを隙間なく敷き詰める構造は、さながらハニカム構造のように機能し、バッテリーパック全体に非常に高い強度をもたらします。
これにより、バッテリーパックが単なるエネルギー源としてだけでなく、車体の骨格を支える構造体の一部としての役割を担うことになります。
この設計は、車両全体のねじり剛性を向上させることに直結し、安定した走行性能や乗り心地の良さに貢献します。
従来のEVが重いバッテリーをただ搭載しているのに比べ、ブレードバッテリーは重さを逆手に取り、車体強度と安全性を高める要素へと昇華させているのです。
この設計思想は、BYD車の耐久性に対する信頼性を物理的な構造の面から裏付けていると言えます。
第三者機関が認めた高い安全性
BYDが主張する安全性は、自社で行う厳しい試験だけでなく、世界各国の第三者機関による客観的な評価によっても証明されています。
特に、自動車の安全性を評価する「NCAP(New Car Assessment Programme)」において、BYDのモデルは高い評価を獲得しています。
例えば、主力モデルの一つである『ATTO 3』は、世界で最も厳しい基準を持つとされる欧州の「Euro NCAP」において、最高評価である5つ星を獲得しました。

EURO NCAP

このテストでは、成人乗員保護、子供乗員保護、歩行者保護、そして安全支援システムの4つの項目で評価が行われますが、ATTO 3はいずれの項目でも高得点を記録しています。
この結果は、BYDの安全設計が世界基準で見ても非常に高いレベルにあることを示しており、耐久性と共に安心感を求めるユーザーにとって大きな判断材料となります。
一方で懸念される発火のリスク
ブレードバッテリーが優れた安全性を誇る一方で、EVである以上、バッテリーの発火リスクが完全にゼロになるわけではありません。
リン酸鉄リチウムイオン(LFP)は、三元系バッテリーに比べて熱暴走しにくい特性を持っていますが、それはあくまで相対的な評価です。
過去には、海外でBYD製の電池を搭載した車両が発火したという報道や、一部リコールが行われた事例も存在します。
これらの事故原因がすべて明確にされているわけではありませんが、こうした情報がユーザーの不安につながっていることも事実です。
ただし、BYDは業界で最も厳しいとされる「釘刺し試験」をクリアしていることを公表しています。
これは、バッテリーセルに釘を貫通させても発火や爆発が起きないことを示す試験であり、ブレードバッテリーの安全性の高さをアピールするものです。
したがって、発火リスクというEV共通の課題は認識しつつも、BYDが採用するバッテリーは、そのリスクを最小限に抑えるための技術的な対策が幾重にも施されていると理解するのが妥当でしょう。
EVの要となるバッテリー寿命
電気自動車の耐久性を考える上で、最も重要な要素がバッテリーの寿命です。
スマートフォンのバッテリーが年々劣化していくように、EVのバッテリーも充放電を繰り返すことで徐々に蓄えられるエネルギー量が減少していきます。
BYDのブレードバッテリーは、この寿命の長さにおいても優れた性能を持つとされています。
この保証内容は、他の多くの自動車メーカーが提供する「8年16万km」と比較するとわずかに短いものの、一般的な使用状況を考えれば十分な期間と距離です。
さらに、BYDの試験データによれば、ブレードバッテリーは10年使用した後でも90%以上の容量を維持するという結果も出ています。

BYD公式サイト
リン酸鉄リチウムイオン(LFP)は、三元系バッテリーと比較して充放電サイクルに対する耐久性が高いという特性も、この長寿命を裏付けています。
ただし、バッテリーの劣化は乗り方にも大きく左右されます。
急速充電の頻繁な使用や、満充電状態での長期間放置は劣化を早める要因となるため、長く乗り続けるためにはバッテリーに優しい使い方を心がけることが大切です。
バッテリーの交換費用は高額か
充実した保証期間が設けられている一方で、その期間を過ぎてバッテリーの劣化が進んだ場合の交換費用は、ユーザーにとって大きな懸念点です。
電気自動車のバッテリーは非常に高価な部品であり、その交換には多額の費用が必要となります。
現時点で、BYD ATTO 3の保証期間外における具体的な交換費用は明確に公表されていません。
ATTO 3のバッテリー容量(58.56kWh)を考慮すると、交換が必要になった際には、同程度の費用が発生する可能性が考えられます。
この金額は、車両の残存価値を上回ってしまうこともあり得ます。そのため、多くのユーザーはバッテリー交換を選択するよりも、新しい車へ乗り換えることを選ぶのが現実的な判断となるでしょう。
これはBYDに限った話ではなく、全ての電気自動車に共通する課題です。
将来的にバッテリーのコストが劇的に下がるか、あるいはリサイクルやリユースの仕組みが確立されない限り、保証期間後のバッテリー性能は、車両の価値そのものを大きく左右する要素であり続けると考えられます。
結局のところ、EVの今後の発展はバッテリー性能しだい、という部分がありますね。
BYDの耐久性を他社比較と課題から検証

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技術的な側面だけでなく、実際の使用感や競合他車との比較を通じてBYDの耐久性を評価することも重要です。
ここでは、日本車や欧州車との比較、充電時間といった実用面、そして見過ごすことのできない課題点に焦点を当て、BYDの耐久性の真価を検証します。
日本車と比較してどうなのか
BYDのモデルを、長年高い品質と信頼性で評価されてきた日本車と比較すると、その立ち位置がより明確になります。最も大きな違いは、やはりコストパフォーマンスの高さでしょう。
例えば、BYD ATTO 3は、同等サイズの国産EVである日産 アリアやトヨタ bZ4Xと比較して、車両本体価格が大幅に抑えられています。
それでありながら、大型のセンターディスプレイや多彩な運転支援システムが標準で装備されており、装備内容で見劣りすることはありません。
これは、バッテリーをはじめとする主要部品を自社で一貫生産する「垂直統合型」のビジネスモデルがもたらす大きな強みです。
一方で、耐久性という観点では、アフターサービス網の充実度が課題として挙げられます。
日本の自動車メーカーが全国に張り巡らせたディーラー網や整備工場に比べると、BYDの拠点はまだ発展途上です。
2025年末までに100店舗以上の展開を目指しているものの、地方在住のユーザーにとっては、万が一の故障やメンテナンスの際に不安を感じる可能性があります。
車両自体の物理的な耐久性だけでなく、長期間にわたって安心して乗り続けるためのサポート体制の構築が、今後の評価を左右する鍵となります。
車種 | BYD ATTO 3 | 日産 アリア (B6) | トヨタ bZ4X (FWD) |
---|---|---|---|
駆動方式 | FWD | FWD | FWD |
バッテリー容量 | 58.56 kWh | 66 kWh | 71.4 kWh |
航続距離 (WLTC) | 470 km | 470 km | 559 km |
最高出力 | 150 kW | 160 kW | 150 kW |
車両本体価格(税込) | 440万円 | 539万円 | 550万円 (※) |
バッテリー保証 | 8年/15万km | 8年/16万km | 10年/20万km (容量70%保証) |
※bZ4Xは個人向けにはKINTO(サブスクリプション)での提供が基本となります。
競合となる欧州車との実力差

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BYDは、競争の激しい欧州市場においても着実に存在感を高めています。
ドイツの大手レンタカー会社がATTO 3を大量発注するなど、その品質と経済性は欧州の法人ユーザーからも評価され始めています。

走行性能や内外装の質感においても、従来の中国車のイメージを覆すレベルに達しているとの声が多く聞かれます。
特に、内装の作り込みに関しては、同価格帯の欧州車と比較しても遜色ない、あるいは部分的には上回っているという評価も見受けられます。
趣味が良いかどうかは置いといて、例えば、フィットネスジムをモチーフにしたというATTO 3の独創的なインテリアデザインや、ソフトパッドを多用した触感の良さは、これまでの実用一辺倒なEVとは一線を画すものです。
しかし、長年にわたり自動車文化を醸成してきた欧州メーカーと比較した場合、走行フィーリングの細かな作り込みや、ブランドが持つ歴史やステータス性といった点では、まだ差があることも事実です。
BYDが今後、単なる「コストパフォーマンスに優れたEV」から脱却し、所有する喜びや運転する楽しさを提供できるブランドへと成長できるかが注目されます。
atto3の充電時間から見る実用性
電気自動車の実用性を左右する重要な要素が充電時間です。
BYD ATTO 3は、日本の充電環境においても十分な性能を備えており、日常生活での使い勝手に大きな支障はないと考えられます。
ATTO 3の充電性能は、家庭などで行う普通充電(AC)で最大6kW、高速道路のサービスエリアなどに設置されている急速充電(DC)では最大85kWに対応しています。
一般的な日本の戸建て住宅に設置できるEV用コンセントは3kWが主流ですが、これを利用した場合でも、バッテリー残量が少なくなった状態から一晩あれば十分に満充電近くまで回復させることが可能です。
6kWの設備を導入すれば、その半分の時間で充電が完了します。
急速充電については、日本の規格であるCHAdeMOに対応しています。
現在、国内に設置されている急速充電器の多くは最大出力が50kW程度ですが、この充電器を利用した場合でも、30分の充電でおよそ180kmから230km走行分に相当する電力を回復できます。
長距離移動の途中で食事や休憩を挟む間に充電を行えば、航続距離の不安はかなり軽減されるでしょう。
ただし、ATTO 3が持つ85kWという高い受入性能を最大限に活かせる90kW以上の高出力充電器の数はまだ限られているため、その恩恵を受けられる場面は限定的であるのが現状です。
購入前に知っておくべき欠点

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BYD車は多くの魅力を持つ一方で、購入を検討する前に理解しておくべきいくつかの欠点や課題も存在します。
これらを把握しておくことは、後悔のない車選びのために不可欠です。
第一に、ソフトウェアの成熟度が挙げられます。
大型のタッチスクリーン式ディスプレイが特徴的ですが、一部のユーザーからは、ナビゲーションシステムの使い勝手や、各種機能のレスポンスに対して改善を望む声が聞かれます。
ハードウェアの品質が高いだけに、ソフトウェアの作り込みが今後のアップデートで向上していくことが期待されます。
第二に、回生ブレーキのフィーリングです。多くの電気自動車では、アクセルペダルを離した際の減速(回生ブレーキ)の強さを調整できますが、BYDのモデルは全体的にその効きがマイルドに設定されています。
最後に、リセールバリュー(再販価値)の不透明さです。
日本市場に参入してからの歴史が浅いため、数年後に中古車として売却する際の価格がどの程度になるか、まだ明確なデータがありません。
優れた耐久性を持つとされていても、市場での評価が定まるまでは、この点が一つのリスク要因として残ります。
BYDの耐久性は信頼できるのか
この記事で解説してきた内容を基に、BYDの耐久性に関する重要なポイントを以下にまとめます。
- BYDの耐久性の核は独自開発の「ブレードバッテリー」
- ブレードバッテリーは熱安定性の高いリン酸鉄(LFP)を採用
- モジュールを廃した「セル・トゥ・パック」構造で高強度と高密度を両立
- バッテリーパックが車体構造の一部となり車両全体の剛性向上に貢献
- Euro NCAPやJNCAPなど第三者機関から最高の安全評価を獲得
- 釘刺し試験をクリアし、物理的な安全性も証明
- 発火リスクはゼロではないが、特性上、従来のバッテリーより低い
- バッテリー保証は「8年/15万km」と実用上十分な内容
- 保証期間を過ぎた後のバッテリー交換は高額になる可能性
- 主要部品の内製化により、日本車を上回るコストパフォーマンスを実現
- 内外装の質感は高く、同価格帯の欧州車にも引けを取らない
- アフターサービス網の拡大とリセールバリューの確立が今後の課題
- ソフトウェアの使い勝手や回生ブレーキのフィーリングには改善の余地
- 「所詮中国メーカー」という先入観は、もはや過去のもの
- 技術的な信頼性は高いが、サポート体制や市場評価といった課題も理解した上で検討することが大切
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